宝石販売指導マニュアル

09 有機質宝石

真珠

真珠は日本にとって最も馴染みのある宝石であることは間違いないであろう。また、皆さんが一番勉強をするものであろう。ここでは真珠の基本的なものについて述べたいと思います。真珠の歴史は古く欧州でも中国でも紀元前1000年頃にその存在が確認されています。この頃はもちろん養殖真珠はありませんがペルシャ湾を中心にした現在の真珠に近い『ベニコチョウ貝』から採れた天然真珠や他の数種の貝から取れる球形ではない真珠が中心でした。また、米国カリフォルニア半島沖も天然真珠を採取することが出来、現在ではメキシコで養殖真珠の試みも行われている。日本で有名な真珠は奈良の正倉院の宝物とされているものであろう。これは当初シルクロードを経て中国、朝鮮半島を経てやってきたものと思われていたが最近日本のアコヤ貝の天然物であることが確認された。つまり、日本でも天然真珠が取れていたのである。また、真珠は人の手の入らないという意味では自然に宝石と認知された人類初の宝石といえよう。(他の宝石は研磨などの他の条件が入る)

養殖真珠

ヨーロッパでは一般的に養殖真珠と天然真珠は基本的に別の物として扱う。養殖真珠の歴史は古く、11世紀の中国では既に試みが行われ13世紀にはいると小さな仏像をカラス貝に挿入し、仏像の真珠を作っていた。また、日本でも明治38年に御木本幸吉翁が養殖に成功した以前にも試みが行われ、既に成功していた。当初はまやかしの真珠として、ヨーロッパでも受け入れてもらえずにいたが天然物とは挿核以外の違いがないことが発表されると天然の真珠の価格は大暴落をした。

エピソード

養殖の真珠が発表されると天然の価格は大暴落し、当時財産の意味も大きかった宝石である天然真珠はそれ自身の価値も下がった。アメリカの資産家夫人はかねてカルティエから買い求めていた真珠のネックレスの代金を払えきれずに返品を申し出たが、カルティエはこれを拒み、カルティエは当時彼女が持っていたニューヨークのビルを代金の替わりに回収した。それが現在の五番街のお店である。 アメリカでは大きな天然の淡水真珠が良く採れる。150年前ほどにニュージャージの川で大きな真珠が採れたニュースが流れ、それをティファニーが当時の値段1500ドル程で買い取ったと話が広がり、あっという間にゴールドラッシュならぬ「パールラッシュ」が起き、人々がアメリカ中の川を渡り歩くといった事態が続いた。現在でもミシシッピー川などで続けられている。

真珠の価値と判断基準

天然であることは勿論希少性の価値があります。養殖真珠は球形が前提の核を挿入されておりますが天然はそうではありません。一般的に言われる「丸い」「白い」「瑕がない」だけであれば真珠層の巻きが少ないものはこれに当てはまります。勿論これに真珠層の巻き具合が重要になります。天然は核が殆どない状態でありますのでこの問題もありません。最近の養殖真珠は短期間に仕上げるものが多く巻きが少ないために取り扱いには十分気をつけなければなりません。また、養殖真珠の大半は染色、調色処理がしてあります。この為退色や劣化の早いものも多くあります。販売時にはわかりにくいのですがこれらを回避するためには絶対的ではありませんが『巻き』の多いものを進める必要があるでしょう。これを判断するには光やテリが深い部分から見えるもの、ただ理解するためにたくさんの商品を見ることが必要でしょう。それ以外は他の宝石と同じような基準で見ることでしょう。『巻き』のいいものはやはり高価で取引されています。

その他の真珠

南洋真珠

大正9年に日本人がインドネシアでシロチョウ貝での養殖に成功して以来順調に大粒の南洋真珠の養殖が盛んになってきた。アコヤガイの真珠に比べ若干肌が粗く、テリがソフトである。

淡水真珠

字のごとく淡水の天然または養殖の真珠で、以前は日本の琵琶湖で採れた淡水真珠はびわ真珠として、良質の淡水真珠の代名詞のように云われていたが、現在は中国の養殖物が多く出回り価格も非常に求めやすく宝石の類に入れるべきかどうかも考えられる。しかし、天然の淡水真珠ではアメリカで20ミリから30ミリのものまで採れており、これは希少性の価値は十分存在する。ただし、美しければと云うことになる。

マベ真珠

マベ貝から採れる半球の真珠をマベ真珠といっているがこの貝では球形の真珠の養殖は成功していない。通常の挿核は貝の外套膜の真珠質を分泌するところに行われますが、マベ貝の場合貝の内側に挿核が行われそれに真珠層が分泌され半球の真珠が出来上がります。

ポイント

現在の市場において真珠の価値判断は難しくなっております。あまりにも大量生産されたために品質の劣化は否めません。巻きの厚いものを販売するように指導することが現状のトラブルを防ぐ事にもなるでしょう。『花球』の基準も貝から取り出した状態で判断するものですが現在は基準があいまいになっており、この言葉の使い方には気をつけ、出来れば使わないことが賢明でしょう。

サンゴ

真珠と同じように鉱物ではありませんが古くより宝物となっている珊瑚は海から採れる天然の宝物といってよいでしょう。樹木のように成長する本珊瑚といわれる種類のものがそれである。その中の紅珊瑚、アカ珊瑚、桃色珊瑚、白珊瑚がそれである。特に紅珊瑚の大きなサイズの色むらのないものは欧米諸国でも高値で取引されている。ヨーロッパでは地中海の珊瑚が古代エジプト、ローマなどでもお守りとして使われていた記述がある。日本でも七福神や宝船には必ず記されるように幸運と富の象徴のように見られている。

琥珀(アンバー)

琥珀もまた鉱物ではなく数千年前の針葉樹の樹液が地層に埋もれ、化石化したものである。内部には時々蚊やアリなどの昆虫が入っていることがあり、摩擦による帯電性もあったために古くから祈祷的なものに使えあれることも多かった。勿論昆虫の混入しているものは珍しく高価で取引をされるが現在では練り物を含め再生物も多く出回っている。最近ドミニカ共和国で採れる琥珀は青色や緑色のものもあり、中にはトカゲや古い植物が混入していて稀有なものとして扱われているが古代のロマンを現代に運ぶという意味では宝物としての価値はあるかもしれません。

ポイント

珊瑚や琥珀は再生物が多く気を付けなければいけませんが本物でも新たな産地の出現による市場価格の左右されやすいものであることを触れておいてください。

カメオ

カメオとはラテン語で浮き彫りを指しますが現在カメオと呼ばれている物がいつ頃からそうよばれる様になったかは定かではありません。ちなみに彫り出し式のものはインタリオといいます。しかし、カメオ(浮き彫り)そのものの存在は紀元前からあり古いものでは紀元前15世紀以上前といわれています。 ここでは現在のカメオについて触れてみましょう。カメオやインタリオに掘られている男性や女性、動物はなんだろうと疑問に感じることもあると思います。基本的に彫られているものはギリシャ神話に出てくる神たちをモチーフしたものが多く、殆どの彫り物は神話のどこかに出てくる神が掘られています。勿論、それ以外にも、それらの関する儀式をトレースしたものも多くありますがいずれにしても基本はギリシャ神話になります。中にはローマ神話の神が出てくるものもあり、現在ではいろいろなものをモチーフしたものが多くあります。

カメオの評価と価値判断

市場には基本的には現在彫られているものが多く、美しさ、彫りの技術そしてシェルカメオに関してはその素材の厚さと安定さが重要になります。つまり、顔が正面を向いた立体感のあるものは物理的にも希少で表情を表現しやすくなりますので掘り師の腕の見せ所ともなりますので高値になります。ストーンカメオに関しては素材の価値との問題もありますが、張り合わせかどうかが基準になります。

ポイント

現代は色々なカメオがあります。ここでは基本であるカメオについて触れていますが、機会があればそれぞれの神話について触れてみることが早道かもしれません。

エナメルジュエリー

エナメルの歴史は古く、紀元前2千年頃にはすでに存在していた。紀元前千年頃のエジプトやフェニキアでは多く使われるがローマ時代には色石の台頭もあり、あまり使われることはなくなった。現在の形になったのは16世紀にドイツのある工房がエリザベス1世の父であるヘンリー8世に贈ったとされるアンセーニュ(帽章)に施されておりこれは現エリザベス女王のコレクションとなっているものであるが、この時代から各国のジュエリーにエナメルが多く使われるようになってきた。

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